十円玉【禍話リライト】
こっくりさんという、降霊術の一種が、
遊びとして爆発的に流行った時代がある。
学校の教室で子供たちがこっくりさんを行い、
それによる集団ヒステリーのようなことが起こるケースも
あったという。
そんなこともあったためか、「こっくりさん禁止令」を出す学校も
珍しくはなかった。
そしてこの話は、小学生の頃に教室でこっくりさんをして
遊んでいたことがあるという女性から聞いた話だ。
彼女曰く、こっくりさんには、
人が死ぬ時期を聞いてはいけないという
いわばローカルルールがあるという。
その理由を、彼女は小学生の時に身をもって知ったという。
ある時、教室の片隅で、仲良したちとこっくりさんをやっていた。
こっくりさんに色々と質問して答えてもらうのだが、
訊ねたいことのネタも尽きてしまっていた。
そこで彼女が思いついた質問が、あろうことか、
「入院している祖母がいつ亡くなるのか」
という自分の祖母の死期を訊ねる内容であった。
それは母方の祖母だったが、彼女は実は祖母が嫌いであった。
理由は、祖母が孫たちの中で、なぜか彼女にだけ
お小遣いをくれなかったり、彼女への態度だけが、
どこか冷たいような気がしていたからだ。
本当に祖母が彼女にだけ優しくなかったのか、
だとしたら理由はなんだったのかは、今となっては
もはやわからない。
当時、祖母は体調を崩して病院に入院中であった。
そして時々、危篤状態になって「もうダメかもしれない」
と言われては、すんでのところで持ち直して復活する…
ということを繰り返していた。
彼女は祖母に親しみもなにもなかったから、
気軽に「祖母がいつ亡くなるか」という、側から見たら
不謹慎とも取れる質問を、こっくりさんにしてみた。
問いかけの中に祖母のフルネームを交え、
「〇〇さんはいつ頃死ぬんですか?」と質問した。
すると、それまでもとりあえず「はい」「いいえ」や
文字列の上を縦横に動いていた十円玉が、ピタリと動きを止めた。
動かなくなった十円玉に、その場にいた皆が少し不安になった。
次の瞬間。突然十円玉がスーッと紙の上を滑らかに動いた。
そして「いいえ」と書かれた箇所の上で止まった。
これでは「祖母がいつ亡くなるのか」の問いの答えには
なっていない。
おずおずと誰かが「死なない?」と口を開いた。
そこから皆も、堰を切ったように言葉を発した。
「おばあちゃん死なないってこと?」
「そんなこと、ないっしょ」
「もう一回聞いてみよう」
「〇〇さんはいつ亡くなるんですか?」
再びその質問を口にしたが、彼女が言い終わるよりも早く
「いいえ」
の方に十円玉が動く。
「ええええ。なにこれ」
それ以降、どんな質問をしても答えは
「いいえ」「いいえ」と、「いいえ」しか指さない。
怖くなったので「もう、おかえりください」とお願いしても、
こっくりさんの返事は「いいえ」。
遂にはもう、裏技というか、なんとかなる方法を駆使して
こっくりさんにお帰りいただいた。
その方法がどんなものだったかは
今はもう思い出せないのだが、とにかくその時は
無理やりなんとか、こっくりさんを終了させた。
そして、こっくりさんを終了したその場は、なんとなく怖いような
白けた雰囲気になってしまったのだった。
そうは言っても、彼女はまだ子どもだったので、
日常が過ぎていく中でこの時のことも、
なんなら病院にいる祖母のことも、もはやどうでも良くなり、
日々を過ごしていたある日のこと。
いよいよ、祖母がもう、本当に危篤で明日をも知れないから
「覚悟して来てください」という病院からの連絡があった。
そこで、彼女も両親と一緒に病院に駆けつけた。
ベッドの上の祖母は、彼女から見ても、もはや最期を迎えようとしているのがわかった。
祖母の近くは、彼女の親たちや親戚の大人達が取り巻いており、
彼女はその輪の外で、やや離れて、皆が「おかあさーん」「おかあさーん」と
泣きながら祖母に呼びかけている様子を神妙に見ていた。
彼女の位置からは、祖母の顔は見えなかったが、祖母の右手がぎゅっと拳を
握りしめているのが見えた。
痩せこけて筋張った手が、恐ろしいほどの力で握りしめられている。
「ああ、おばあちゃん苦しいのかな。もう最後だからなのかな」
と彼女は思った。
そして、その場で死からおそらく最も遠いところにいる子ども特有の、
妙な残酷さからだろうか、
「うわー、人が死ぬとこってこういうふうなのかな」
などと、観察を続けていた。
そうこうしているうちに、遂に祖母は力尽きたかのように、
亡くなった。
周りの大人たちが啜り泣いている。
彼女は嫌いな祖母だったが、親や親戚にとっては
大好きな母親だったのだろう。
などと思いながら、彼女も神妙な顔をしてその場に佇んでいたのだが、
祖母の握りしめられていた拳が、死後に弛緩してきているのが
目に入った。
そしてその緩んできた手から、何かが落ちて床の上で小さな音を立てた。
それを拾った大人が言った。
「おばあちゃん、なんで十円玉なんか…?」
「あの時、それはもう、ゾーッとしちゃってね」
と彼女は微笑みながら語ってくれた。
だからやっぱりこっくりさんにはそういうの聞いちゃいけないんです、
人がいつ死にますか?なんて、ね。
引用元と著作権について
この話は青空怪談(無料&著作権フリー)の「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「禍話」第一夜⑴を元に私自身がリライトしたものです。
原作リンク先:禍話 第一夜(1)https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/301130969
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半ライス大盛り少なめ(仮) 【2016年~2017年】怖い話ツイキャス 『禍話』 ライブ履歴アーカイブ【まとめ】
孤島の奇譚 禍話リライトまとめ 2016年
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理科さんによるリライト:[禍話リライト]十円玉https://note.com/siguma_r/n/n413cbb9efaec
ドントさんによるリライト:【怖い話】 握っていたもの 【「禍話」リライト⑨】https://note.com/dontbetruenote/n/n2054eb6c55d2
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みはさんによるリライト:十円玉【禍話リライト】https://note.com/38miha3/n/n2c3d347b7106
朗読動画のリンクも貼っておきます
本家のツイキャスの切り抜き
YouTubeチャンネル 禍話の手先さんによる切り抜きです。
「十円玉」は9:30あたりからです。


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